満濃池のゆる抜き
本当はうずしおロマンチック街道の前のことですが、2020年7月は各地で豪雨による水害がありました。
被害にあわれた方にお見舞いを申し上げます。
さて、今年(2020年)6月に行われた満濃池のゆる抜きですが、一般の方の見学については感染予防の為お控えくださいということでした。
これまでも何度か満濃池のゆる抜きを見に行ったのですが、いずれも水が放たれてから随分時間が経った後で、結局それならばいつ行っても同じではないか、という気持ちになったので、今年はゆる抜きの一日後6月16日に訪れて見てきました。
(満濃池のゆる抜きは毎年6月15日と日にちが決まっています)
ゆる抜きの一体何が面白いのか、というところは、実はあんまり僕もわかっていなかったのだけれど、一度見ると「そうかあ、これか」というところがあるので、もし満濃池やゆる抜き、満濃池畔の石碑なんかにご興味がおありでしたら、どうぞお読みください。
※令和3年度2021年6月の満濃池のゆる抜きですが、満濃池土地改良区にお尋ねしたところ、今年も昨年同様規模を縮小して実施とのことでした。
満濃池のゆる抜き自体はあるけれど、人が密集したり、集まったりしないように、自粛を呼びかけるのだそうです。
まあ、仕方がないところですが、また来年は元通りになってほしい気持ちでいっぱいです。
ほたる見公園
まずは場所からですが、満濃池は仲多度郡まんのう町にあります。
元々は漢字の満濃町でしたが、周辺の自治体と合併した際に「まんのう町」とひらがなになりました。
さぬき市や東かがわ市と同様に、ひらがなが入る地名も時間が経つと慣れてくるものですね。
高松市からは車で約55分です。
これまで僕は国道32号線経由で約1時間と思っていましたが、山の道を行けば、いつも1時間かからなくなりました。
満濃池森林公園や国営讃岐まんのう公園など、この春はこの辺りに来ることが多かったのは、やはり車でアクセスしやすいからなのだろうなと思います。
満濃池の堤防にそのまま車で行けるので、もちろん歩くのが面倒な方はそのまま堤防に行ってもらっても良いのですが、僕はほたる見公園というところから堤防まで歩くのも楽しみなので、いつも下に車を停めています。
歩くと言っても、上の地図の黄色い破線で、数百メートルという距離です。
少し登りや階段もあるから、ほとんどの方は堤防まで車で行っています。
十数台しか停めるスペースがありますが、例年のゆる抜きの時期には大体車で埋まっています。
一度ホタルの時期に来てみたいなあと思っているのですが、なかなか実現しません。
この先には徒歩でしか入れません。
普段香川ではあまり聞くことのない川の水の流れが聞こえてきます。
とても急流ということでもないけれど、水量は多いです。
この水の流れに沿って遊歩道が続きます。
満濃池の堤防下に整備された公園で、池より流れ出る川のせせらぎが心を和ませます。園内は「ほたるの壁画」「ぼたん園」「ほたるの里」そして満濃池へと「遊歩道」が続き、ぼたんをはじめ、桜・しょうぶ・あじさい・つつじなど四季の花を散策できます。
日本最大級のため池 満濃池 | 香川県まんのう町観光情報 まんのう元気プロジェクトより引用
なるほど、僕は夏以外にほたる見公園に来たことはないのですが、桜やツツジなんかも植えてあるのですね。
途中に向かいの道と往来できるように小さな橋が架かっていて、そこから満濃池の堤防を見上げます。
ちょうど遊歩道の右手には川、左手にはアジサイがありました。
断然アジサイの花が咲いている方を歩いて行きたくなります。
僕は香川で生まれ育ったわけでもないし、そんな水車がまわっていた時代も全く知らないわけですが、何となく昔この辺りではこういう水車小屋みたいなのがたくさん建ち並んでいて、これを使って小麦なんかをついていたのだろうな、と思います。
どことなく昔の風景への憧れというか、思い出すものがあるのでしょうね。
もちろん水車は止まっていて、今はもうそこに建物があるだけです。
背後に水の音を聴きながら、アジサイを見ていると、ああゆる抜きの季節だなあという気持ちが増してきます。
分水樋門から満濃池の樋門
ちょうど水車小屋の方にカメラを向けて動画を撮っていると、風がふわっと吹いて、林から落ち葉がハラハラと落ちていきました。
奥からは年配の男性が一人歩いて来ていて、すれ違いざまに何か言っていました。
最初は何を言っているのかわからない感じでしたが、
「邪魔になっとらんかったか?」
と2,3度言い直してくれて、
「いやいや、大丈夫ですよ」
と応えました。
コロナ以降、なかなか知らない方とこういう感じで会話を交わすことがなかったので(お互いに避けている節もある)、その方も何かしゃべりたかったのだろうと思います。
この方を含めて4組しか遊歩道では出会わなかったから、来ている方はとても少なかったです。
さて、少し歩くと水飛沫の音が大きくなってきました。
樋門の辺りも大きな音ですが、意外と僕はこの分水樋門(この表現で正しいかはわからないけれど)の流れも好きです。
まあ、もちろん何があるということでもなくて、ただ上流からの水が下流に流れているだけなのですが、ここではいくつかの水路に分かれているようで、その感じが何だかいいのですよね。
ここからまたさらに各田畑へ運ばれていくのだろうから、ゆる抜きって大事にされてきているのだと思います。
水の量を定める為、水路の幅なんかも取り決めがあるのだろうなあと思いながら、その岐路に立ってみます。
詳しいことはわかりませんが、大きな音を立てて流れる水の音を聴くのは、心地悪いということはありません。
もちろんバランスを崩さないようにしなくてならないけれど。
普段は陸地に生い茂っている草木が、水の勢いで揺れています。
その辺りもちょっと綺麗な感じなのですが、草木は何だ急に水の量が増えたぞ、と驚いているでしょうね。
門の向こうには、また静かな水面が広がります。
さらに道を進みます。
満濃池の樋門が登録有形文化財ですよ、という説明版の前に立った時に、水に浸かった手すりを見て、ふと思いました。
ちょっとこの水際がラピュタっぽい感じ(1時間30分頃のロボット兵についていくシーン)で、覗き込んだら古代の街が広がっているのではないかという雰囲気です。(実際にはもちろんそんなことはないけれど)
天空の城でも水が要るだろうから、灌漑施設は必要だものね。
そして、じっと水面に目を凝らすと、魚の影も見えました。
20cmくらいのコイでしょうかね。数匹で群れを作って泳いでいます。
池から樋門を通じて一緒に泳いできたのでしょうか。それとも元々川にいたのか、その後どうなるのか、などなど考えてしまいます。
池の水を流して、辺り一帯を水辺にするということは、灌漑施設では結構よくあることなのでしょうか。
この感じが満濃池の好いところなんだなと思いながら遊歩道を進みます。
いつもこの時期には、大勢の方がゆる抜きを見にやってきている季節です。
もちろん神事の行われる6/15には溢れるほどの人ですが、今年はそういう感じではありませんでした。
人の気配はなく、大きな水音と虫の音とが山の間に響いています。
ここに人がいないことが珍しくて、大抵お互いに譲り合いながら樋門の辺りを撮るのですが、この日は誰もいませんでした。
少し陰になってしまっていてわかり難いけれど、真ん中よりやや左の両サイドに石の柱がある辺りが樋門です。
満濃池樋門 まんのういけひもん
満濃池樋門 文化遺産オンラインより引用
弥勒石穴建設で信望を得た軒原庄蔵が安政の地震で決壊した満濃池堰堤下の石樋に代えて建設するに始まる全長197mの底樋隧道とその出口。坑口周りに五角形迫石を用い、石造のコーニス,袖壁、柱頭付端柱とで坑門を飾る。
弥勒石穴や軒原庄蔵も何となく見てみたくなりますね。
満濃池周辺は、来るたびにそういえばあれもこれもとなっていくので、香川の歴史や文化が集まった場所なのだなと思います。
緑の堤防を越えて
その樋門の上には芝生の緑が美しい満濃池の堤防があります。
満濃池はいろんな百選のうち、香川の緑百選の一つにも選ばれているのですが、もう少し細かく選べるなら、「緑の美しい堤防百選」にも選ばれるはず。
豊稔池ダムには人工の石造りの美しさがありますが、満濃池の堤防には自然と里山が調和した景観が素晴らしいところです。
僕が訪れた時には話題になっていなかったのですが、この後線路沿いの崖にヤギがいるというニュースがありました。
結構勾配のある崖ですが、ヤギが住むにはこの堤防の斜面はちょうど良いのじゃないかと思います。
目の前には飛沫をあげて流れる水の音、背後には緑に覆われた美しい緑と青空。
個人的には、ゆる抜きの最高のポジションだと思います。
しばらくの間ずっとここに立っていたいほど。
しかし上にもやはり見てみたいものがあるので、歩きはじめます。
堤防の斜面は急な階段なので、登りたくない方がいてもまったく不思議ではないのですが、できれば上ってみてください。
もちろんぐるっともう一度駐車場に戻り、車で上がることもできますが、目の前に階段があったら登りますよね。
階段の幅はやや広めですが、ちょっと柔らかい土なので、滑らないようにご注意ください。
満濃池は大宝年間(701~704)に造られたということなので、約1300年もの間、池の水を堰き止めていることになります。
1300年、古墳以外なかなか周囲では見つけられない建造物です。
お一人堤防を歩いておられる方がいました。
池の畔に出るには、最後にこの舗装した道路を通ります。
方角としては北西の方向を見ています。
満濃池から流れる水の行く先、琴平や善通寺の方向が、山と山の間から見えています。
満濃池畔の石碑
階段を上るにつれ、ゆる抜きの水の音が遠ざかり、静かな池が広がります。
日本最大級の灌漑用ため池で、香川を代表するため池、満濃池です。
もちろん池を眺めて楽しむのも良いのですが、この池畔には数多くの石碑が建っておりまして(何と言っても1300年…)、石碑の集積所のような状態となっています。
全部ではないですが、順番に見ていきますね。
まずは新しいところで、満濃池世界かんがい施設遺産登録の記念碑。
四国初の世界かんがい施設遺産
日本最大級のため池 満濃池 | 香川県まんのう町観光情報 まんのう元気プロジェクトより引用
満濃池は、2016年に国際かんがい排水委員会による「世界かんがい施設遺産」に四国で初めて選出されている。世界かんがい施設遺産は歴史的・技術的価値のある潅漑(かんがい)施設を登録する制度である.
この記事を書きながら気が付いたのですが、ちょっと手が加えられている?
触れたりしたわけではないので、光の加減や露かもしれません。
もしかしたら何か特殊な事情があるかもしれないから、あまり触れないでおこうと思うけれど、以前に撮ったレリーフはこうでした。
まあ、あれこれ考えてしまいますが、以前の絵柄もインパクトがあってよかったのになあと思っています。
満濃池の歴史が簡単にまとめられている説明版もあります。
平成十三年の説明版は上のような感じですが、昔の説明版というか記念碑は石碑です。
「眞野池記」とされています。
日付は明治八年(1875年)と読めるので、145年程前のものですが、しっかり文字も見えました。
風雨にさらされながらも、じっと建って歴史を伝えているのですが、いずれただの丸い石になるのだろうなあというところがロマンです。
調べていたら日本建設業連合会のHPに全文を掲載していました。
こちらは松崎渋右衛門の辞世の句碑。
長谷川佐太郎と満濃池の改修工事をした幕末の方です。
高松城内で暗殺というなかなか壮絶な…。
句碑は片原町からここに移されたのだと説明に記されています。
その他にも国体開催の石碑などがありますが、その隣には「さぬき百景」もありました。
探して行くことはなく気が付いたら撮るので、見つけると少し嬉しくなります。
心の中ではヒャッケイさんと呼んでいます。
わあ、確かに、確かにここはさぬき百景です。
海や川、湖ともちょっと違って、昔から造り続けたきた大きな池という感じ。
毎回水の量を見ながら、向かいの島というか陸地に行ってみたいなあと思っていました。
どうだろう、誰もいないけれど、あの石碑を一度間近に見てみたいところです。
石の堤防をそろそろと降り、池畔まで行くと、一か所だけ渡れそうな場所がありました。
わあ、満濃池の水って近くで見ると透明で、とても綺麗なのですね。
ちょっと岩や土が脆くなっていて、崩れかけていました。
護摩壇岩
日本最大級のため池 満濃池 | 香川県まんのう町観光情報 まんのう元気プロジェクトより引用
空海が池東の堤防が見渡せる高台岩上に、護摩壇を作り工事期間中護摩を焚き、工事の無事完成を祈ったと伝えられ、その岩山は今も護摩壇岩として残っています
なるほど、こここは護摩壇岩というところで、空海が護摩を焚いたという場所なのですね。
他の場所には?というものもありますが、「護摩を焚いた」というのは本当のことかもしれないなあと思うし、それを長い間語り継いでいるのもすごいところ。
僕もいろいろ試して読もうとしたのですが、太陽の加減と石の劣化で読めませんでした。
どこかで書いてあることが読めるといいのだけれど。
この先にちょっとした岩場があるのですが、そこで護摩を焚いたのでしょうかね。
確かに池全体を見渡せるようになっているので、見晴らしはよいところです。
ここは人の気配もないし、居心地がよいのかプウンプウンと大小の虫さんたちが飛び回っていました。
護摩壇岩で何かあってはいけないので、さっと下の水辺に下ります。
わあ、ここも綺麗なところです。
何度も来ているはずなのに、こうした浅瀬でじっくり満濃池の水を見たことはなかったので、透明なことに驚きました。
小さな魚も何匹か泳いでいましたので、やはりここから下の川に行くこともあるのでしょうね。
こちらは句碑となっていまして、満濃池を紹介するパンフレットに
「昭和7年、空海を讃える歌碑が建立。」
とありました。
1937年なので、こちらはまだ比較的新しい石碑なのですね。
護摩壇に 修め志法の いさをしを 萬代ま傳も たゝへまつらむ
覚祥作
まんのう町内名勝調査報告書より引用
まんのう町が昨年2019年に満濃池の調査報告書を出されて、とても分かりやすく書いてくれていました。(もう一つの護摩壇岩の石碑に言及はないから、やはり読めなかったのでしょうかね。)
もうずっとこのまま石碑を眺めて、それについて調べていたっていいのだけれど、終わらない物語になってしまいますので、先に進みます。
今昔物語に、満濃池の竜と天狗のお話があるのですが、その中に、
「池のまわりはるかに広くして 堤を高く築きまわしたり 池などは見えずして、海とぞ見えける」
という一節がありますが、まさにそんな感じです。
たくさんの魚が、というのも今回は見ることができました。
昔の方もこんな感じで景色を見て、いいところだなあと思ったのでしょうね。
満濃池配水塔
護摩壇岩から堤防に戻ります。
ご覧の通り、堤防の上は広くなっているから、皆さんそこに車を停めて休憩したり歩いたりしています。
繰り返しになりますが、ほとんどの方はここまで車で来て眺めて帰るのだろうけれど、ゆる抜きの際は、是非堤体の下まで行ってみてください。
神野神社の御旅所があり、その先に配水塔が見えます。
帰って来てから、毎回そうだった、と思い出すのですが、道沿いに看板があって、「おちょうな岩」というのが堤の下にあるのだそうです。
あの少し膨らんだあたりなのでしょうかね。
見て来ようと思いつつ、いつも忘れてしまうのは、石碑とアジサイがあるから…。
いついつに配水塔を作りましたよ、という記念碑や説明版が並んでいます。
比較的新しい時代のものが多いのでしょうかね。
そして、この日僕の満濃池のゆる抜き巡りのゴールは、こちらの配水塔前のアジサイです。
ゆる抜きのある6/15前後には、この場所でアジサイが毎年綺麗に咲いています。
何か特別な種類であるとか、他と比べて特に美しいということではないのだけれど、ゆる抜きの水の音を背景に聴きながら見るほたる見公園のアジサイと、石碑とともに静かに池を見つめるアジサイの感じが、とても良い雰囲気です。
もしこのブログの記事を読んで、満濃池に行かれる方がいたら、是非「おちょうな岩」を探して見てください。僕はまだはっきりとこれだと思うようなおちょうな岩を見たことがありません。
水の中に沈んでいるのだろうから、きっと水位が低い時期に見られるのだろうかと思います。
こちらが配水塔で、神事はこの中でも行われて、「ゆる」を抜くのだそうです。
配水塔の下からは、ウィーンというか、グワングワンという唸るような低い音がしていました。
静かな水面の池の底では、たくさんの水が流れているのでしょうね。
満濃池のゆる抜きは、その景色だけではなく、水の音や虫や鳥の啼き声、讃岐の歴史や文化的な背景を一度に感じることができる機会です。
奥さんが言うには「ただ池から水が流れていくだけ」といいますが、是非いろんな視点から、満濃池のことを知って行かれると、面白い発見があるかもしれません。
機会があれば、是非立ち寄ってみてください。
それでは、今日はこの辺で
いつもお読みいただき、ありがとうございます。