宇野港周辺の作品と言っても、そんなに数があるわけではありません。
全部で10の作品があり、そのうち新作が5つと、宇野港周辺は力の入った作品が多かったです。
今回は宇野港周辺の作品のうち、新作を中心に見てきた様子などを書きます。
瀬戸内国際芸術祭2022(以下瀬戸芸)は、既に閉幕したので、既に見られなくなっている作品もありますが、もし宇野港周辺のアート作品や、瀬戸芸ではどんな作品があったのか、などにご関心がある方の参考になれば幸いです。
【INDEX】
- 宇野港周辺の作品 赤い家は通信を求む
- 宇野港周辺の作品 時間屋
- 宇野港周辺の作品 実話に基づく
- 終点の先へ、JR宇野みなと線アートプロジェクト
- 宇野港周辺の作品 本州から見た四国
- 宇野港周辺の作品 S.F. (Seaside Friction)
- 宇野のチヌ、舟底の記憶 、海の記憶
宇野港周辺の作品 赤い家は通信を求む
もし場所や行き方を見たい方は、先に書いた瀬戸芸2022夏会期の新作宇野港 をご覧ください。
今回は作品の方です。
宇野港の駐車場から、宇野駅の案内所で検温をして、本当はもう一つ手前に「時間屋」があったのですが、他に数組の方が入っていきました。
なので、後にして細い路地を入って行きます。
フラッグや案内がなかったら、辿り着けないと思います。
案内所でちらっと見たら確かに「赤い家」という感じ。
作家さんは「片岡純也+岩竹理恵」とあり、見ていたらお二人で創作活動されておられるのですね。
Junya Kataoka and Rie Iwatake, ART WORKS, 片岡純也+岩竹理恵
遺されたアンテナを発端に家を装置として再生する
シュッと消毒して入って行きます。(階段の手すりがあったのでしておいてよかった)
かつての住人とモノが過ごした時間と気配を感じた作家は、時代とともに役割を失ったまま遺されたモノたちをゴーストとして再生させる装置を生み出した。
宇野港 | 瀬戸内国際芸術祭2022より引用
「ゴースト」というので、ちょっと怖い感じなのかな、と思っていたらそんなことは全くなかったです。
「シャア―シャア―」という音が無限に続くかのように地球儀がまわっています。
なるほど、こすり合わせて回転しているのでしょうか。
後でフラムさんのコラム読んだら、地球儀も緑のロールも省電力でまわしているのだそうです。
透明なチューブで空気を送っているのかな?としばらく見てしまいました。
たくさんの地球儀、これだけあったら確かにまわしてみたくなりますね。
奥の部屋には台所があり、いろんなものがまわっています。
また壁にはたくさんの物の写真が貼ってありました。
ガスコンロ台にはバケツがあり、水には浮きがまわり、
向かいの壁の一輪車には、緑の人工芝ロールがまわっていました。
何かはよくわからないのですが、まわることでそれをじっと見てしまいました。
階段の手前に仕切りのある空間があって、電灯から吊るされたスイッチの紐の先から規則的に光が放たれていました。
わあ、これは面白い!
ライトが円を描くと、その軌跡が残って模様になっていくのだけれど、時間が経つと…、
パッと灯りがついて、全て消えてしまい、また暗くなって円を描く、というのが続いていました。
面白い仕掛けで、しばらく見ていました。
横にある急な階段(まあまあ急だけれど上りやすかった)で二階へ上がると、もう一つ似たような仕掛けがありました。
綺麗な模様を描いたところで…パっと消える。
じっと見ていたいのですが、次々に他の方も来るのでそんなにじっとしてられません。
(奥さんはとっくに見終わって「早く、早く」と急かしだした)
この辺りの景色なのか、たくさんの写真がありました。
本当は一つ一つ丁寧に見たいところです。
屋内展示は19時までらしいので、ゆっくり見てもいいのでは、と思っていましたが、結構あっという間でした。
隣の部屋にも緑の人工芝ロール。
何かに利用しようと思っておいてあったのでしょうかね。
押し入れが見えたので、近づいて見ると、いろいろありました。
僕も結局20分ほどいたけれど、もっと時間が許せば30分以上は見ていられるという雰囲気でした。
あとから写真や動画を見て、もっとじっくり見ておけばよかった、と思った作品の一つです。
宇野港周辺の作品 時間屋
続いて「時間屋」へ行ってみます。
結構テレビや新聞、SNSでも紹介されていたので、何となく知っていた気になってしまいました。(こういうことが時々ある)
作者は長谷川仁さん。長谷川仁 HASEGAWA,Jin
2016年は屋島で、2019年は女木島で作品をお見かけしました。
今回は宇野港で塩を使った作品です。
時間屋では作品の一部を購入する事ができます。 10秒の時間を小瓶に入れて持ち帰る事ができます。46億年のうちの10秒を切り取って持ち帰るという趣向です。
時間屋/Time shop 宇野 | 長谷川仁 HASEGAWA,Jinより引用
中は真っ白な壁で、窓口で受付をすると、資料の展示と中に作品があると案内がありました。
かつて塩田だった頃の写真などがありました。
瀬戸内沿岸の一帯が塩田だったのですね。
曽祖父は塩田で資金を得て、みかん畑を買った、と叔父から聞きましたので、実際には見たことがないけれど、塩田の写真を見ると親しみを感じます。
中へ入って行きますね。
わあ、綺麗な白い部屋。
そしてサラサラと流れ落ちる白い粒が見えます。
あれが塩なのでしょうかね。
近くで見ると、塩でした。
何日分とかの分量を決めて、上から流しているのでしょうかね。
下がいっぱいになる前に、入れ替えなければいけないだろうから、結構それも大変だろうなあと思います。
壁の装飾も、変わっていて美しかったです。
薄暗いから、じっとみていないとわからないけれど、一つ一つが数字になっています。
やっかいな換気扇の油と埃の塊みたいに見えていましたが、そうではなかったです。
この時計で10秒をはかるのでしょうね。
器にアルミのカップがあったので、上から落ちる塩をそれで掬うことができます。
その溜まった塩を見て、今その時の時間を感じてください、ということなのでしょうね。
なかなか面白いです。
次の方が来て、就学前の子どもさんが楽しそうに掬っていました。
「お土産があるって書いてあった。持って帰れんの?これ」
と奥さんが言うので、係の方に尋ねてみますと、有料でしたが、塩を瓶に詰めて持ち帰れるそうです。
ええと、ただの塩ですが、良いですか?と尋ねたくなる気持ちもありますが、時間屋に行った記念としてほしいのだそう。
おかげで僕はその始終を見ることができました。
それを見ていた先ほどの小さい子が「ほしい!」と言い出して、お母さん「えほんまに?いるの?」と言っていました。
そりゃ見てたらほしくなるよね。
少し申し訳ないことをしたかな、という気もしましたが、なかなか良い感じのキーホルダーになって、我が家の壁に今も飾られています。
見るたびに2022年、宇野港の暑い夕方の時間屋を思い出せるから、これはこれでよかったです。
通りには夕暮れ光が差していて、猫が出てきていました。
宇野港にも、猫がいました。
宇野港周辺の作品 実話に基づく
さて、ここまでの2つの作品もよかったのですが、宇野港の作品では最も印象に残ったのが「実話に基づく」でした。
いやあ、これを書きたいがためにもう一度宇野港の記事を書いている、と言っても良いほどです。
写真だけでは、動画だけでは言い表せないことを、やはりこうして書いておきたいという気持ちがあるのですね。
もう既に使われなくなった医院を改装した作品です。
最初、怖い感じだったらいやだなあ、と思っていましたが、これは少しも怖くありませんでした。
ここで気が付いたのですが、この通りの3つの作品は同じ会社や団体が協力、協賛されていたのですね。
靴を脱ぎ、廊下に入って行くと、窓が開けられていて、外から虫の声が聞こえます。
それと同時に「ガシャン、ゴオーン、ガチャ」という解体工事の音がしました。
「あれ?近くで解体が行われているのかな?」と部屋を覗きます。
ムムム、これはテレビの音なのでしょうかね。
そうでした、解体をしている映像を流していて、その音が静かな建物の中に響いています。
いやあ、粟島の小学生の声にも驚いたけれど、今回も驚きました。
今写真をみていると、僕の耳の奥にはさっきまで聞こえていなかった解体の音が聞こえてくるほど。
破壊され新しいものに置き換わる建築の問題に取り組んでいる作家が、20年ほど前パリ郊外で撮影された破壊される建築物の映像と写真を、旧病院の内部で展示する。
宇野港 | 瀬戸内国際芸術祭2022より引用
なるほど、この映像はパリのものなのですね。
フラムさんのコラムでも、この部分が触れられていまして、パリのアパートなのだそうです。
これら15個の映像は第一次世界大戦後の1930年代に96の異なる民族が集まって生活していたアパートが2000年から2005年のあいだにただ壊されてしまった、その破壊のドキュメントで、実に生々しい。
瀬戸内国際芸術祭2022 2022.04.12瀬戸芸断簡②より引用
「使われていない医院がそのままになっている中で、壊されていく異国のビルを見る」という体験なのですが、これが何となく残るのですよね。
病院だから、決して楽しい雰囲気ではないけれど、子どもの頃に風邪をひいて待合室で待つ時のような、そんな雰囲気がありました。
そして、消毒の匂いや、人の気配というか、生活感が薄いのですが、かといって廃墟、という感じでもない。
ぎりぎりのバランスを感じます。
そして、陽ざしがと光がとてもよかったです。
僕が夕方に訪れたというのもあったのかもしれませんが、西日が庭から差し込んでいて、廊下を照らします。
ガラスを通してみるのと、通さないで見るのとが、また違ってとてもよかったです。
(何枚か頑張ってその雰囲気を撮ろうと頑張ったけれど、写真では、なかなか表せなかった…)
一部屋ずつ、また違った灯りと映像が流されていました。
僕はここにもう少し長くいた買ったのだけれど、奥さんはすでに二階も見終えて帰ってきてしまいました。
「まだ?」と言っている…。
「ここは、まだ、まだ」
結局僕がこうして写真や動画を撮る間、奥さんも展示の解説などを見ているので、最後に作品をあとにする時、奥さんの方がやけに詳しい、ということがよくありました。
僕はあとで説明や解説見て「そうだったのか!」と思いたい方ですが、奥さんは先に見た方が理解しやすいのだそう。
それぞれ鑑賞の仕方にも、好みがありますね。
この作品は照明や電球がとてもよかったです。
どの部屋にも映像があったから、きちんと見ないと見落としてしまう、そんな感じでした。
いつかこの建物も解体されてその役目を終える時が来るのだろうけれど、その前に作品となり、こうして多くの方の目に留まることになったのは、よかったのだろうと思います。
階段を上って二階へ行きます。
この階段や手すりも、清潔で使い込まれた感じがあって、なかなかモダンな雰囲気です。
廊下にはソファがありました。
このソファががまた趣のある感じで、思わず座ってしまいました。
もう少し写真が上手く撮れたらよかった、と思うところです。
二階にも幾つか部屋があり、それぞれに映像がありました。
下に吸い込まれていくのでは、と思うような部屋や、
少し広めの窓の着いた部屋など、たくさんの仕掛けがありました。
この部屋はとても落ち着いていて、この椅子にも少し腰かけてしまいました。
古いけれど、居心地の良い空間に、解体の音が響きます。
しばらくするとそれも慣れてきました。
いや、これはなかなか大満足の作品で、できれば再度訪れてみたい、と思ったほど。
閉幕後に終了してしまったので、もしかたら最後になるかもしれないなあと寂しい気持ちにもなります。
芸術祭の作品の中には、理解が難しいものと、そうでもないのがあって、比較的難しい方だと思いますが、宇野港の通りに面した3作品はどれも個人的に「何となく好き」という雰囲気で、よかったです。
終点の先へ、JR宇野みなと線アートプロジェクト
予想より長く時間がかかってしまい、本当はカフェでお茶でも、と思っていましたが、日没が近づいてきて、そんな感じではなくなってきました。
和菓子屋さんがあったので、どら焼きを買って、それを歩きながら食べました。
「こうして歩きながら食べるとドラえもんみたいだね」と言いながら次の作品へ。
宇野港駅前に戻ると、自転車の作品が港側からこちらに移転していました。
案内所が駅の構内にあったから、こちらの場所の方がいいのかもしれません。
背景の点でいうと、以前の方がよかったかも。
すぐ隣にエステルさんの駅舎。
今回とても失敗したのは、この作品の看板を撮り忘れたことでした。
日没が近づいていて、ちょっと気持ちが焦っていたのかもしれません。
そこから向かいに出来たホテルの方へ横断歩道を渡りました。
宇野港周辺の作品 本州から見た四国
この作品は夏会期からの公開で、明るいうちに見てみたいと思っていました。
こちらも新しくできたUNOHOTEL。
この敷地を抜けて作品へ向かいます。
奥さんは「もう遅いから、ここに泊まって帰りたい」と言っていました。
レストランもあって、なかなかお洒落な感じでした。
宇野から直島に行く方は、直島で宿が取れなかったら、ここで一泊でも良いですよね。
キャンプ場やグランピング施設、その奥には入浴施設もあります。
そこからやや港側の入り江に、作品が設置されていました。
そして、ニュースになっていたので、もう多くの方がご存知のように、この作品は既に撤去されてしまいました。
9月の台風の影響で、破損してオブジェが落ちてしまったそうです。
【公開中止】
宇野港 | 瀬戸内国際芸術祭2022より引用
本作品は台風14号により破損したため、撤去しました。
言われてみれば、下の支えている部分が細い気もしますが、近くで見ると結構頑丈な造りでした。
アイシャさん、トルコを代表するアーティストなのですね。
AYŞE ERKMEN
この作品のよさは「四国」というところだったのですよね。
本州と四国の2つの島を対峙させ、瀬戸内の島々のメタファー、シンボルにもなっている。
宇野港 | 瀬戸内国際芸術祭2022より引用
1本のステンレスパイプで、結構高さもあり、近くで見ると迫力がありました。
四国へ渡る際、多くの方が宇野港を利用したことを考えると、なかなかシンボル的でよかったです。
見た時には気がつかなかったのですが、下にはカラミレンガを敷き詰めていたのだそうです。
そして、今は奥に見える直島へ発着する港として、その役割を変えている感じが、この場所から伝わってきました。
遠くから、駐車場の向こう側からも見えて、シンボルになる感じでしたので、強化して、また展示されるといいなあと思います。
宇野港周辺の作品 S.F. (Seaside Friction)
宇野港5つの新作の最後は玉野競輪にありました。
金氏さん、2019年には屋島で作品を展示されていました。
そうそう!この時も「S.F」というタイトルでした。
前回は「Smoke and Fog」、今回は「Seaside Friction」。
Teppei Kaneuji 金氏 徹平
使われなくなった競輪場の廃材を使った作品でした。
結構急いだのですが、日没後になってしまい、鮮やかな色は撮れませんでした。
次回は明るい時にみてみたいものです。
何となくもとからここにあったのでは、というほど馴染んでいました。
写真は競輪選手なのでしょうかね。
海辺の近くの公園で、会期終了後も見られる宇野港の新作はこちらだけです。
ただ、以前の作品があるから、それをもう少し見ておきますね。
宇野のチヌ、舟底の記憶、海の記憶
港に戻ると、すっかり暗くなっていて、奥さんも歩き疲れて「帰りたい」と言っていました。
しかし、もう少しだけ、と港の作品を見に行きます。
暗い中でしたが、少しライトアップされていて、夜でも綺麗に見えました。
宇野港のシンボルは、やはり宇野のチヌですね。
隣には「コチヌ」。
芝生の広場へ歩いて行くと、舟底の記憶があります。
こちらもライトで照らされていて、夜でも浮かび上がるように見えました。
涼しいということはなかったのですが、真夏の日差しを避けられるという点では、夜でよかったです。
また、会期終了後も常時鑑賞が可能です。
さて、宇野港の最後は内田晴之さんの「海の記憶」。
この後秋会期に高見島のショップで、内田さんと話すことができました。
宇野港の作品のことを聞くと、少し離れたこの場所に作るということが決まっていたそうです。
昼間に見るとこんな感じで、キラキラ輝いています。
こちらの作品も常時鑑賞が可能でした。
ちょうど市役所が裏にあるから、その前の公園に、ということだったのだろうなあと思います。
高見島の新作も、バランスを取りながら大きな作品を支える形になっていましたが、こちらも良く見ると接している面が少ないです。
今回は夜になってしまいましたが、また次回明るい時に見に来たいと思います。
さて、長くなりましたが、これで宇野港周辺の作品はお終いです。
宇野港周辺の作品は、新作が豊富で、しかも見応えがあったのと、夕方の風景がなかなか綺麗だったのが、今回行ってよかったところです。
残念なのは、船で来られなかったところ。
直島経由で行こうかとも思ったのですが、やはり車の方が早くて便利でした…。
次回は船を乗り継いで、あるいはJRで行ってみようかと思います。
それでは、今日はこの辺で。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。