しっぽくうどん、とその名を聞いただけでも、美味しい味を思い出します。
皆さんご存知のように香川県では、とても多くの方が「毎日」うどんやそばを食べています。
まあ、そうは言っても、うどんを「毎日」食べている人はごく一部でしょ、なんて県外の方は思うかもしれないのですが、結構な数の方が「毎日」食べていると思われます。(さすがに三食ではないと思うが…)
傍から見ていると、うどんばかりで飽きないのだろうか、と僕も思うのだけれど、よくよく観察していると、うどんにもたくさんの種類があって、1種類だけを食べているわけではないようです。
そして、うどん屋さんは数百あるそうなので、確かにそれなら食べ続けられるかも、という気もしてきます。
香川県には「そば・うどん店」がどれだけあるのでしょうか。
うどん県統計情報コーナー(「そば・うどん店」の事業所数) より引用
平成28年に行われた経済センサス-活動調査(総務省)によると、香川県は人口1万人当たり「そば・うどん店」数が5.60店と、全国第1位です。
平成28年の人口が約97万人だから、540~550店くらいの「うどん屋・そば屋」があるのでしょね。「製麺所」タイプのお店は「製造業」としていることもあるので、実際は700~800くらいじゃないかと言われています。(なんで誰も真剣に調べないのかと常々疑問ではあるが…)
まあ、喫茶店や食堂、フェリーでもうどんは食べているのだから、うどん・そばを食べられるお店なんて全部数えられない、といえばそうなのかもしれません。
そして寒い時期になると、そのうどん屋さんのお店にには、
「しっぽくうどんあります」
とか
「本日そばもあります」
という感じの手書きの紙が貼られます。
季節で言えば冬だけだから、12月から3月はじめくらいの寒い時だけのことだから、パッと書いて貼りました、というものが多いです。
寒い日にそれを見かけると、しっぽくうどんを一度食べてみたいなあという気持ちにもあるものです。
いりこだし
もちろんうどん屋さんで食べるしっぽくうどんは美味しくて、これは美味しいと思いながら食べるのですが、これは家でも作れるのでは、と毎回思います。
昨年12月に芸予諸島にあるの祖母宅へ帰省した際(ここは実家とはまたちがう所謂「おばあちゃんち」)、イリコをお土産に貰いました。
伯父や伯母が言うには、ずっと昔から馴染みの魚屋さん尾道にいて、毎年売りに来てくれるのだそうで、
「もう随分年やけん、もうやめるやめる言いながら、来てくれよんよ」
と、言いながらイリコを分けてくれます。
聞いていると、毎年同じ漁場ということではなくて、宇和島だとかその前には周防大島だとか、なかなかその話でひと盛り上がりあります。
僕はこのイリコ(昔は煮干しと呼んでいたが)を小さな頃から食べているわけで、小魚一つとってもそれぞれの土地の地理的な背景や、文化的な繋がりみたいなものがあるのですね。
香川県ではイリコと言えば伊吹島、というイメージがありますが、今回はこちらのイリコを使って出汁をとりました。
少し入れすぎただろうか、と思うくらい入れました。
本当は頭やお腹を取るとすっきりした味になるというのですが、味付けしてしまうと僕はその違いがあまりわかりませんので、そのまましました。
半日くらい水にイリコと昆布を浸し、火にかけます。
沸騰する手前で止めて、濾しました。
しっぽくの具
続いてしっぽくの具材です。
こちらも特に「何をいればければいけない」とか、「必ず何がいる」なんて決まりはないようで、冬の野菜や根菜、お肉なんかも少し入れると豪華に見えますよ、という感じです。
逆に何が合わないかを考えると、トマトやナス、キュウリなどの夏野菜は合わないかもしれません。(これも入れたって別に構わないが)
僕は今回思いつくまま、また旬だな、と思うものを買ってきました。
左上から時計回りに、大根、人参、葱(中葱)、白菜、椎茸、油揚げ、牛蒡、蒟蒻、そして鶏肉です。
まあ、切てみてから思ったのは、あれもあったら、これもあったら、というのが次々と出てきます。
セレベス(里芋)、焼豆腐、シメジ、エノキ、玉葱、マンバ、法蓮草、小松菜、ブロッコリー…。
まあ、結論からいうと、冬に冷蔵庫にある野菜であれば、ほぼ何でもいいのでは、という気もしてくるほどです。
それぞれ好みもあるとは思いますが、大根、人参、牛蒡、蒟蒻、葱の4つくらいは「レギュラー」というか、定番で入っていると美味しいなあと思います。
大根を先にゆでたり、蒟蒻を熱湯にさらしてお砂糖で水分を抜く、油揚げの油抜きなんて下ごしらえがお好きな方は、どうぞ時間をかけてやってください。
僕は鶏肉だけは先に焼く、ぐらいしかしません。
時間が経って染み込んでくると、ほとんど風味や味に変わりがなくなるから、そのままでもよいかと思います。切るだけでも面倒なので。
先ほどの出汁を入れ、アクが出たら取り、調味料を入れて弱火で煮込みます。
入れたのは砂糖、酒、みりん、しょうゆ。
味を見ながらですが、僕はここ最近顆粒の和風だしと鶏ガラスープ、麺つゆを少しだけ加えます。
鶏ガラスープはテレビに出たうどん屋さんが入れているというので、真似してみました。
もちろん入れなくても美味しくできるのだけれど、ちょっと入れると味がまとまるというか、「味薄い!」と子どもに言われることが少なくなりました。
まあ、いろいろ工夫しながら入れてみてください。
どうやら、しっぽくの場合、煮込む時間の多少ではなくて、煮て火が通った後に冷ましてしばらく置いておけるか、ということなのだろうと思います。
すぐだと「味が染み」てなくて、フレッシュな感じです。
一方翌日だと、具材全体に味がなじんでより美味しかったです。
玉売りのうどん・そば
さて、もしかしたら、僕は「しっぽく」よりも、こちらの方を書きたかったのではないか、という気もする、「玉売り」のことです。
発音も結構独特で、僕もいまだにうまく発音できないのですが、「たまうり」という制度が香川のうどん屋さんにはあります。
いや、もしかしたら、全国的にそういう制度はあるのかもしれないけれど、これだけの店舗数が密集する中で、なかなか表にも出てこない制度って、結構不思議だなあ、という気もします。
まあ、簡単に言えば、うどん屋さんで食べているうどんやそばの麺を、「玉売り」として買ってそのまま自宅に持ち帰ることが出来る制度です。
もちろん玉売りをしていないお店もあるかもしれないし(あるのかな?)、特定の常連さんだけにしているお店もあるかもしれないし、誰でも買うことの出来るお店もたくさんあると思います。
その辺りは別に興味がないので、皆さんそれぞれご確認ください。
でも、何となく僕も「はじめて」入ったお店で玉売りをお願いする勇気はありません。(なんでだろうね…)
同じうどん屋さんに何度か通って食べてみて、大体期間とすれば、そうだなあ2、3年くらいすると、お店の人も「ああこの人は時々食べに来てくれる人」くらいの印象を持ってくれた頃合いがあります。
常連さんに近いけれど、そんなに親しく話したりもしないような雰囲気で、
「玉売りもできますか?」
「大丈夫ですよ、いくつしましょ?」
という感じで頼みます。
僕は3人家族なので、3玉でよいのだけれど、それでは頼むのに少ない気がして(これも難しいところ)、「うどん」と「そば」をそれぞれ3つずつお願いしました。
このお店では、500円ちょっとだったので、ひと玉100円しない計算となります。
そして、余計な細かいことかもしれないけれど、これは「持ち帰り」扱いで、「店内飲食ではない」ので、税金は8%となっていました。
大体ビニールに入れてくれるところが多いようで、これに白いポリ袋に入れてくれます。これも余計なことですが、この後ビニール袋が有料化したら、どうするのだろう、という心配もあります。いや、昔のようにやはり皆さん鍋を持参して、その中に入れて持ち帰るということになるのだろうか、などなどと考えながら持ち帰ります。
「え?鍋?」と驚かれる方もいるかもしれませんが、結構最近まで(そしてもしかしたら今でも)、鍋を持って玉売りのうどん・そばを持って帰る文化は見聞きしていたから、実際にあっただろうし、今でも同様にされている方は大勢いるかと思います。
僕も少し前ですが、ラーメンならスープと鍋に入れて持って帰ったことがありますよ。いつもより、ややのびていましたが…。
冷めない距離に本当に身近にうどん屋さんがある、香川ならでは風景だと思いますが、その辺りが面白いところですね。
そして僕が悩んだのは、この持ち帰ったうどん、そばの「温め方」です。
お店ですぐに食べるのと違って、水分を含んでいるから、webではレンジとお湯を使ったやり方などを紹介しているけれど、実際はどうなんだろうなあという感じ。
「うどん屋さんで玉売りした麺の家庭での簡単な温め方」みたいなことを、誰か詳しい方が教えてくれたらよいのだけれど。
奥さんに尋ねると、「お湯で温める」としか言わないので、そうか、と温めてみます。
最初は鍋の熱湯に浸していたのですが、そうすると、お湯の温度が一気に下がってしまって、温めるのに時間がかかります。
家で食べる場合、なるべく食卓にそろって食べ始めたいので、お湯をポットなどで沸かしておいて、ざるで浸しています。(全くこれが正しいとか美味しく食べられるということはないので、そこはご留意ください)
この日はうどんとそば両方を買って持ち帰ったので、奥さんと子どもに一応尋ねてみます。
「しっぽくうどんとそば、どっちにする?」
「そば」
「そば」
ええッ?と思いましたが、二人ともそばでした。
二人は香川県で生まれ育ったのだから、「うどん」か「そば」かと尋ねれば、間違いなく「うどん」というに違いない、と思っていたは僕の間違いでした。
なんで、と尋ねると温かいしっぽくは「そば」の方があうのだそうで、うどんも美味しいけれど、しっぽくの時に選べるのならば「そば」だそうです。
ウムム、難しい…。
しっぽくそば、 しっぽくうどん
という訳で、玉売りの「そば」を温めます。
ざるそばのように、細く切ってつるつると食べるようなそばではなくて、太くて、寒い時にはほくほくと食べられそうな、「いなかそば」という感じなのですが、これはこれで、とても美味しそう。
もっと簡単に玉売りうどんの温めが出来る方法があればいいなあと思います。
具とは別に、「出汁」を別に作ってもよいのですが、今回はそのまま温めたそばにかけていただきました。
子どもはネギや七味などの薬味は嫌がるので、載せませんでした。
二人がそばにするならば、と続いて僕のうどん。
眺めていてもも麺がのびていくだけなので、食べてみます。
うん、まずまず、自分好みに美味しくできていると思います。
奥さんは「そば」が柔らかすぎる、子どもは「少し薄い」(←いつでも言う)と言っていました。
僕はそんなにその違いはわかりませんでした。
しかし食べていると体は温まるし、数ある「讃岐うどん」の中ではしっぽくに入る野菜の量や種類は、最も多いと思います。
今回は半ばそれを書きたいがために玉売りのうどんを使いましたが、半生のを茹でても、袋めんでも冷凍でも自分で打っても、特に大きな差はないかと思います。
玉売りのうどんだと、その手間がかからない、というのがよいところです。
例えば年末年始なんかで、親戚が大勢集まったり、お祭や冠婚葬祭などで「自宅で大人数にうどんを振舞わなければならない状況」の時には、玉売りのうどんやそばを利用する方もいるのだろうと思います。
僕は結局この日は「昼にうどんで夜もうどん」と2食うどんだったので、もうしばらくいいかな、と思っていたのですが、翌日も具が残っていたので、お昼はうどんに…。
そして、やはりこの記事を書いていると、また今シーズンのうちにもう一度、二度、しっぽくを食べてみたいなあと思うのでした。
役に立つかどうかは知らないけれど、材料と作り方も載せておきます。
しっぽくうどん (そばでも)
材料(二人分くらいの目安)
- うどん・そば:三玉(三人分)
- 大根:1/8本
- 人参:1/2本
- 鶏もも肉:200g
- 白菜
- 牛蒡:1/2本
- 油揚げ:1枚
- 椎茸:小6本
- 蒟蒻:1枚
- 中葱:1本
- サラダ油:小さじ1
- 水:1.5リットル
- イリコ:20匹(匹?でよいのかな)
- コンブ:2枚(5cm角)
- 和風だし:小さじ1
- 鶏ガラスープ:小さじ1
- 市販の麺つゆ二倍濃縮:30㏄
- 砂糖:大さじ2
- 薄口しょうゆ:大さじ2
- 濃口しょうゆ:大さじ1
- みりん:大さじ1
- 酒:大さじ1
- 七味:適量
調味料は味見しながら調節してください。
しょうゆに濃口と薄口を使うのは、奥さんの好みなので、僕はどっちでも特に変わりはないと思っています。
作り方
- 材料を食べやすい大きさに切り、鶏肉に火を通してからその他の食材と出汁を入れ、沸騰したらアクを取って蓋をしたまま15分ほど煮る。
- (そのまま一晩おける場合には、置く方が美味しい)
- 玉売りのうどん、そばを熱湯で温め、具材と出汁、お好みで葱、七味をかける。
寒い時期だけの香川のしっぽくうどんとしっぽくそば。
是非機会があったら、召し上がってみてください。
それでは、今日はこの辺で。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。